
Amazon DynamoDBはAWSが提供するフルマネージドNoSQLデータベースサービスです。この記事では、従来のリレーショナルデータベース(RDB)との違いから、DynamoDBの基本的な概念、使いどころ、そして最新機能までを詳しく解説します。
RDBとNoSQLの違い
データベースを選択する際、リレーショナルデータベース(RDB)とNoSQLデータベースの違いを理解することは非常に重要です。以下に主な違いをまとめました。
1. データモデル
リレーショナルデータベース(RDB):
- テーブル、行、列という構造化されたデータモデル
- 固定スキーマを持ち、事前にデータ構造を定義する必要がある
- テーブル間のリレーションシップ(外部キー制約など)を定義
- 正規化を通じてデータの重複を排除
NoSQL(DynamoDB):
- スキーマレスで柔軟なデータモデル
- 必要に応じてフィールドを追加・削除可能
- 複雑なリレーションシップの代わりに、アクセスパターンに最適化したデータ設計
- 必要に応じてデータを非正規化して、クエリパフォーマンスを向上
2. スケーラビリティ
リレーショナルデータベース(RDB):
- 垂直スケーリング(より強力なハードウェアへのアップグレード)が主な拡張方法
- 水平スケーリングには複雑なシャーディングやレプリケーション設定が必要
- スケーリングに伴う管理オーバーヘッドが増大
NoSQL(DynamoDB):
- 水平スケーリング(分散システムに負荷を分散)に優れている
- 自動的にデータをパーティションに分散
- ボタン一つで容量を増減可能
- シームレスなスケーリングでダウンタイムなし
3. クエリ能力
リレーショナルデータベース(RDB):
- SQL(構造化照会言語)による柔軟なクエリ
- 複雑なJOINクエリやトランザクションをサポート
- アドホックなクエリに強い
- 集約関数やグループ化など、高度な分析機能
NoSQL(DynamoDB):
- シンプルなクエリパターンに最適化
- 複雑なJOINの代わりに、データアクセスパターンに合わせたデータモデリング
- キーベースのアクセスに特化
- セカンダリインデックスを使用した多様なクエリパターンのサポート
4. トランザクションと整合性
リレーショナルデータベース(RDB):
- ACID(原子性、一貫性、分離性、耐久性)トランザクションをサポート
- 強い整合性を保証
- 複雑なトランザクションに適している
NoSQL(DynamoDB):
- 単一テーブルおよびクロステーブルトランザクションをサポート(ただしパフォーマンスへの影響あり)
- エラー処理とロールバック機能
- BASE(Basically Available, Soft state, Eventually consistent)モデルに基づく
- 強い整合性と結果整合性のオプションを提供
5. パフォーマンスと遅延
リレーショナルデータベース(RDB):
- 複雑なクエリには高いCPUとメモリリソースが必要
- JOIN操作による遅延が発生する可能性
- インデックス設計と最適化が重要
NoSQL(DynamoDB):
- シンプルなキーベースのアクセスで一桁ミリ秒のレスポンス時間
- 大量の並列リクエストを効率的に処理
- アクセスパターンに最適化したデータモデルで高性能を実現
DynamoDBの特徴と使いどころ
主な特徴
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フルマネージド: インフラストラクチャ管理不要で、プロビジョニング、設定、スケーリング、バックアップなどが自動化されています。
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高性能: 一桁ミリ秒のレスポンス時間を提供し、どんなに規模が大きくなっても一貫したパフォーマンスを維持します。
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高可用性と耐久性: データは複数のアベイラビリティーゾーンに自動的にレプリケーションされ、99.999%の可用性を実現します。
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スケーラビリティ: オンデマンドモードやプロビジョンドモードにより、アプリケーションのニーズに合わせてシームレスにスケールします。
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セキュリティ: きめ細かなアクセス制御、保管時と転送時の暗号化、VPCエンドポイントなど、包括的なセキュリティ機能を提供します。
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バックアップと復元: ポイントインタイムリカバリや定期的なバックアップ機能で、データ保護と災害復旧をサポートします。
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グローバルテーブル: 複数のAWSリージョンにまたがるマルチリージョンデプロイメントを簡単に実現できます。
最適な使用シナリオ
DynamoDBは以下のようなシナリオで特に効果を発揮します:
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高トラフィックのWebアプリケーション: ソーシャルネットワーク、コンテンツ管理システム、Eコマースサイトなど、大量のリクエストを処理する必要があるアプリケーション
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モバイルアプリのバックエンド: スケーラブルで低レイテンシなデータストレージと取得が必要なモバイルアプリケーション
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ゲームアプリケーション: プレイヤーデータ、ゲーム状態、リーダーボードなどを管理するゲームプラットフォーム
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IoTデータの収集と分析: センサーデータや機器からのテレメトリデータの保存と分析
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マイクロサービスアーキテクチャ: 独立したサービス間でのデータ共有と永続化
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サーバーレスアプリケーション: AWS Lambdaなどのサーバーレスコンピューティングサービスとシームレスに連携
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セッション管理: Webアプリケーションやモバイルアプリのユーザーセッション情報の管理
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リアルタイム分析: 時系列データやイベントデータの収集と分析
DynamoDBの主要概念
DynamoDBを理解するための重要な概念を紹介します:
1. テーブル、アイテム、属性
- テーブル: データの集合。RDBのテーブルに相当
- アイテム: テーブル内の個々のデータエントリ。RDBの行に相当
- 属性: アイテム内の個々のデータ要素。RDBの列に相当
2. プライマリキー
DynamoDBでは、テーブル作成時に以下のいずれかのプライマリキー型を選択する必要があります:
- 単一プライマリキー(パーティションキーのみ): 一つの属性でアイテムを一意に識別
- 複合プライマリキー(パーティションキーとソートキー): 二つの属性の組み合わせでアイテムを一意に識別
3. セカンダリインデックス
プライマリキー以外の属性でテーブルを効率的にクエリするために、DynamoDBはグローバルセカンダリインデックス(GSI)とローカルセカンダリインデックス(LSI)の2種類のセカンダリインデックスを提供しています。これらについては後ほど詳しく説明します。
4. 読み取り整合性モデル
DynamoDBは以下の読み取り整合性オプションを提供します:
- 結果整合性のある読み込み: 最新の書き込み結果が反映されていない可能性があるが、より低いレイテンシとコスト
- 強い整合性のある読み込み: 最新の書き込み結果が確実に反映されているが、より高いレイテンシとコスト
5. キャパシティモード
DynamoDBは以下の2つのキャパシティモードをサポートしています:
- プロビジョンドキャパシティモード: 事前に読み取り/書き込み能力を指定
- オンデマンドキャパシティモード: 使用分のみの支払い、自動的にスケーリング
GSI(グローバルセカンダリインデックス)とLSI(ローカルセカンダリインデックス)
DynamoDBでより柔軟なクエリを実現するための重要な機能が、グローバルセカンダリインデックス(GSI)とローカルセカンダリインデックス(LSI)です。これらを適切に活用することで、アプリケーションのパフォーマンスを大幅に向上させることができます。
グローバルセカンダリインデックス(GSI)
GSIは元のテーブルとは異なるパーティションキーとオプションのソートキーを持つインデックスです。
主な特徴:
- テーブルとは異なるパーティションキー(およびオプションのソートキー)を使用可能
- テーブル作成後でも追加・変更・削除が可能
- インデックスは完全に独立したスループット設定を持つ
- サイズ制限がない
- 2025年現在、テーブルあたり最大20個のGSIを作成可能(以前は5個まで)
- 結果整合性モデルを使用(強い整合性のある読み込みは不可)
一般的なユースケース:
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多様なアクセスパターンのサポート:例えば、ユーザーIDでの検索に加えて、部署や役職でも検索できるようにする
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多次元データの分析:異なる属性に基づいてデータを集計・分析
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フィルタリングされたビューの提供:特定の条件に一致するアイテムのみを効率的に取得
-
データの並び替え:ソートキーに基づいて、異なる順序でデータを取得
GSIの実装例:
ゲームアプリケーションのユーザースコアテーブルがあるとします:
テーブル:GameScores
- パーティションキー:UserId
- ソートキー:GameTitle
- その他の属性:Score, DatePlayed, TopScore など
このテーブルで「特定のゲームの上位スコア」を取得したい場合、GSIを以下のように設定できます:
GSI:GameTitleIndex
- パーティションキー:GameTitle
- ソートキー:TopScore(降順)
これにより、特定のゲームタイトルのスコアを上位からクエリすることが容易になります。
ローカルセカンダリインデックス(LSI)
LSIはテーブルと同じパーティションキーを使用しますが、異なるソートキーを持つインデックスです。
主な特徴:
- テーブルと同じパーティションキーを使用するが、別のソートキーを定義
- テーブル作成時にのみ定義可能(後から追加不可)
- テーブルと同じスループット設定を共有
- 各パーティションキー値につき、すべてのLSIを合わせて最大10GBまでのサイズ制限
- 強力な整合性のある読み取りをサポート
- テーブルあたり最大5個のLSIを作成可能
一般的なユースケース:
-
強い整合性が必要なケース:最新のデータが必ず必要なアプリケーション
-
単一パーティション内の複数のアクセスパターン:同じパーティションキーを持つアイテムを、異なる属性でソートして取得
-
サイズ制限が問題にならないデータモデル:パーティションキーあたりのデータ量が10GB未満の場合
LSIの実装例:
上記のゲームスコアテーブルで、ユーザーごとのゲームプレイ日時でソートしたいとします:
LSI:UserDateIndex
- パーティションキー:UserId(テーブルと同じ)
- ソートキー:DatePlayed
これにより、特定のユーザーがプレイしたゲームを日付順にクエリすることができます。
GSIとLSIの比較
特性 | グローバルセカンダリインデックス(GSI) | ローカルセカンダリインデックス(LSI) |
---|---|---|
パーティションキー | テーブルとは異なる可能 | テーブルと同じ |
ソートキー | テーブルとは異なる可能 | テーブルとは異なる可能 |
サイズ制限 | なし | パーティションキーあたり10GB |
作成時期 | いつでも(テーブル作成後も可能) | テーブル作成時のみ |
削除 | いつでも可能 | 不可(テーブル削除時のみ) |
プロビジョニングされた容量 | インデックスごとに独立 | テーブルと共有 |
整合性 | 結果整合性のみ | 強い整合性と結果整合性の両方 |
テーブルあたりの最大数 | 20(2025年現在) | 5 |
インデックス設計のベストプラクティス
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必要最小限のインデックスを作成する:
- 不要なインデックスはストレージコストとスループットを消費します
- 実際のクエリパターンに基づいて必要なインデックスのみを作成しましょう
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プロジェクションを最適化する:
- インデックスに投影する属性を最小限に抑えることでコストを削減
- クエリで頻繁に取得する属性のみを投影
-
スパースインデックスの活用:
- 特定の条件を満たすアイテムのみをインデックスに含めることで効率化
- 例:ステータスが「アクティブ」のアイテムのみインデックス化
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書き込みシャーディングの検討:
- ホットパーティション問題に対処するため、書き込みを複数のパーティションに分散
- 特にGSIで一部のキー値に書き込みが集中する場合に有効
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インデックスのパフォーマンスをモニタリング:
- CloudWatchメトリクスを使用してインデックスのパフォーマンスを定期的に確認
- スロットリングが発生する場合はキャパシティを調整
DynamoDBの最新機能(2025年)
DynamoDBは継続的に新機能が追加されています。2025年時点での最新機能をいくつか紹介します:
1. 高度なトランザクション処理
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クロスリージョントランザクション:複数のリージョンにまたがるトランザクションが可能になり、グローバルアプリケーションでのデータ整合性が向上しました。
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トランザクション分析ツール:トランザクションのパフォーマンス分析と最適化を支援する新しいダッシュボードが導入されました。
2. 高度なデータアクセスパターン
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複合クエリ機能:複数の条件を組み合わせた高度なクエリパターンをサポートし、より複雑なデータアクセスが可能になりました。
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クエリオプティマイザー:自動的にクエリを分析し、最も効率的な実行計画を選択する機能が追加されました。
3. コスト最適化機能
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インテリジェント容量管理:使用パターンを分析し、自動的に最適なキャパシティモードとプロビジョニング設定を推奨します。
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アダプティブスケーリング2.0:より高精度なスケーリング予測と、ワークロードに応じた迅速な容量調整を実現します。
4. 統合と連携機能
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AWS Graviton対応:Gravitonプロセッサを活用した低コスト・高効率なDynamoDB処理が可能になりました。
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MLインテグレーション強化:DynamoDBのデータを直接機械学習モデルに統合する新しいコネクタが追加されました。
5. セキュリティ強化
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高度なデータ保護:きめ細かな暗号化コントロールと監査機能が追加されました。
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IAM Identity Center統合:企業のID管理システムとの連携が強化され、アクセス管理が簡素化されました。
6. 開発者エクスペリエンスの向上
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高度なDeveloper Consoleの刷新:より直感的なインターフェースとデータ可視化ツールが導入されました。
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No-Code Query Builder:SQLライクな視覚的クエリビルダーにより、複雑なクエリを簡単に構築できるようになりました。
DynamoDBの実装ベストプラクティス
1. データモデリング
- アクセスパターンから始める:「どのようにデータを取得するか」を最初に考えてデータモデルを設計
- 1対多のリレーションシップ:複合ソートキーや階層的データ構造を活用
- 多対多のリレーションシップ:アドジャセンスリストパターンを検討
- 非正規化を恐れない:読み取りパフォーマンスのためにデータの重複は許容される
2. パーティションキー設計
- 高いカーディナリティ:値が均等に分散するパーティションキーを選択
- ホットキーの回避:特定のキー値に読み書きが集中しないように設計
- 合成パーティションキー:必要に応じて複数の属性を組み合わせたキーを作成
3. スループット管理
- Auto Scalingの活用:需要に応じて自動的にキャパシティを調整
- バーストキャパシティの理解:未使用のキャパシティは一定時間蓄積される仕組みを活用
- オンデマンドモードの検討:トラフィックが予測不可能な場合に適している
4. コスト最適化
- 適切なキャパシティモードの選択:予測可能なワークロードにはプロビジョンド、そうでなければオンデマンド
- TTL(Time to Live)の活用:不要なデータを自動的に削除
- 圧縮の検討:大きなアイテムは圧縮して保存することでコスト削減
まとめ
DynamoDBは、高いスケーラビリティ、可用性、パフォーマンスを必要とするモダンアプリケーションに最適なNoSQLデータベースサービスです。従来のリレーショナルデータベースとは異なるデータモデルとアクセスパターンを持ちますが、適切に設計すれば、柔軟性と効率性を兼ね備えたソリューションを提供します。
グローバルセカンダリインデックス(GSI)とローカルセカンダリインデックス(LSI)を活用することで、さまざまなアクセスパターンに対応できるため、アプリケーションの要件に合わせた適切な選択が重要です。特にGSIは、テーブル作成後でも追加・変更可能で、テーブルとは独立したスループット設定を持つなど、柔軟性が高いという利点があります。
DynamoDBは継続的に進化しており、2025年の最新機能によって、より高度なトランザクション処理、コスト最適化、セキュリティ強化などが実現されています。これらの新機能を活用することで、さらに効率的でスケーラブルなアプリケーションを構築することができるでしょう。
ウェブアプリケーション、モバイルアプリ、IoT、ゲーム開発など、あらゆる分野でDynamoDBの活用が進んでいます。アクセスパターンを中心に据えたデータモデリングと適切なインデックス設計により、DynamoDBの真の力を引き出し、ビジネスの成長に合わせてシームレスにスケールするシステムを構築しましょう。